横浜国立大学大学院 先進実践学環

玉井 洋将さん

先進実践学環で何を研究していますか?

私が先進実践学環で研究しているのは「人間力創生」という分野。現在、修士2年目ですが、教育社会学が専門の新谷康浩先生の下で研究を続けています。

研究内容は「幼少期の家庭環境での文化経験が、ゲームの楽しみ方にどう影響を与えるのか?」というもの。ここで言う“ゲーム”とは、PCやPlayStation5などで遊ぶゲームのことです。なぜこの研究を志したのかと言えば、私の個人的な経験・興味が大きく影響しています。

実は私は学生時代から不登校児向けの学習塾で講師のアルバイトをしているのですが、そこでは勉強を教えるだけでなく、雑談をしたり、一緒にゲームをして遊んだりする時間もあります。

不登校児には、無気力で何もしたくないという子もいます。そんな彼らに「とりあえずゲームでも一緒にやってみようよ」と誘ってみると、意外と夢中になってくれて、もっと上手くなろう、と思う子も出てきます。つまりゲームを通して、活力を取り戻してもらえるわけです。

そこで私が見てきた不登校児たちは、おしなべてすごくゲームが上手でした。主にプレイしていたのは世界大会が開かれるような競技性の高いゲームだったのですが、中にはプロゲーマーになれるんじゃないかと思えるほど上手い子も。その一方で、競技性の高いゲームには関心を示さず、オンラインでゆるく他人とつながるSNS的なゲームを好む子もいました。

それである時、ふと思ったわけです。なぜ人によってゲームの楽しみ方に差が出るのだろう? と。そして、もしかしたらそこには「出身階層」が関係しているのではないか、と仮説を立てました。これは経済的な階層というより、文化的側面においての話です。例えば、幼い頃に音楽や文学に触れた経験の多寡。そうした文化的経験が生み出す差ですね。

これが、いまの研究を始めるに至った動機です。

先進実践学環を選んだ理由は?

もともと私は横浜国立大学で教育社会学を専攻していました。卒業後は学習塾や教育系の出版社などへの就職することを考え、就職活動を行ったのですが、正直まだ自分がやりたいことがハッキリしていなかったこともあり、あまりうまくいっていませんでした。

そんな中、大学の学部時代からお世話になっていた新谷先生にご相談したところ、「ちょうど2021年に先進実践学環ができるから、せっかくならもう少し勉強してみたら?」とアドバイスを受けました。先進実践学環は、指導教員を決めて入学するシステムです。そこで2021年4月に、新谷先生が担当される「人間力創生」の研究テーマを選び、さらなる勉強・研究に邁進することにしました。

入学してわかった先進実践学環の魅力は?

修論にまとめる研究内容を絞り込むまでに、幅広い分野の授業を取って視野を広げられるのが、異分野融合と文理融合を理念に掲げる先進実践学環の大きな魅力の一つかなと思います。

最初から一つの物事だけを深堀りすると、その周辺にある重要なことを見落としたり、最悪、研究が行き詰まったりしがちです。そういう意味で、500以上の授業をフレキシブルに受けることができる学環では、今までまったく知らなかった、あるいは見落としていた知識や研究に出合う機会が多く、自然とバランスの良い視座が得られます。実際、自分の価値観も良い意味で揺さぶられることが多かったです。

特に私の研究対象であるゲームは、まさに文理が融合した総合芸術ですから、学環のバラエティに富んだカリキュラムは、研究を掘り下げるために大きな助けになりました。

印象に残っている授業はありますか?

都市イノベーション学府の授業の一つ「都市地域社会論」を受講しているのですが、これはすごく面白いですね。ざっくり説明すると、都市の発展のためには芸術指数の高さが必要になるとか、都市が持つ価値観の多様性・寛容性がなければテクノロジーも発達しない――といった、都市の格差や文化レベルの関係について考える授業です。

一見すると私の研究とは関係ないようにも思えますが、実は先ほどお話した「出身階層」の興味につながってくる側面があります。人と同じように、都市の発展にも経済的な資本のみならず、文化的な資本投下が欠かせない、ということがよくわかって、とても興味深いですね。

また、先進実践学環には「ワークショップ」という、いわゆる研究成果の中間発表会があります。これは研究テーマの枠を越えて、いろんな分野の学生が研究成果についてプレゼンテーションするというもの。まさに学環ならではのプログラムで、自分の研究テーマ以外の発表にも自由にアクセスできます。

私もここで、冒頭にお話した出身階層とゲームの楽しみ方の研究報告を行ったのですが、これを観てくださった教職大学院の先生から、「いま“漢詩が学べるゲーム”のプロジェクトを進めているので、ぜひ参加してみませんか」と問い合わせをいただき、動画作成の構成などでご協力することになりました。こうした意外なつながりが生まれるのも、先進実践学環の面白いところだと思います。

今後の進路や目標について教えてください

修了後の進路ですが、すでに就職が決まっています。自治体や物流関係、教育関係のシステム開発などを請け負っている会社で、私は主に教育分野に関連する部署のSEとして働く予定です。

最初はゲーム制作会社に就職しようと思って動いていたのですが、なかなかうまくいかず、一度立ち止まって、自分の本当にしたいことは何だろう? と考えてみました。

結果、やっぱり自分の関心は教育分野にあるのだな、とわかりました。加えて、これまでゲームを通して不登校児と触れ合ってきた経験もあります。そこで「テクノロジーで教育問題を解決できる企業」を条件に定めて就職活動を行い、内定をいただきました。

受験生の方にアドバイスをお願いします

いま修士論文のラストスパートに入っている段階ですが、振り返ると、すごく充実した2年間だったな、と思いますね。もちろん、苦労したことも多々ありましたが、それよりも充実感のほうが大きいです。

就職するか、大学院に進学するかで悩んでいる人もいると思いますが、少しでも興味のある人は、ぜひ先進実践学環に飛び込んでみてほしいですね。人生の中で、ここまで自分の関心のあることに熱中できる機会はそうそうないはず。とても贅沢な2年間になると思いますよ。