横浜国立大学大学院 先進実践学環

佐藤 なつ美さん

先進実践学環で何を研究していますか?

「国際ガバナンス」という研究分野で、「浮体式洋上風力発電」について研究しています。わかりやすく言うと、海に浮かべた風車による風力発電についての研究です。

この研究を志したきっかけは、2022年3月に発出された「電力需給ひっ迫警報」でした。当時、福島沖で地震が発生して火力発電所が停止し、東京でも節電が叫ばれて大騒ぎになりましたよね。そのとき初めて「日本の電力ってこんなにギリギリな状態だったんだ」とびっくりしまして。今後、洋上風力発電がもっと普及すれば、地震などの災害が起きたとしても、より安定して電力が供給できるのでは? と思ったのがこの研究を始めた理由です。

実は風車には、2種類あります。一つは「水平軸型風車」、そしてもう一つが「垂直軸型風車」。風車と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは扇風機のような形だと思います。あれが水平軸型風車です。私が研究しているのは後者のほう。これはその名の通り、ブレードに回転を伝える軸が地面に対して垂直、つまり上向きに設置されている風車です。

垂直軸型風車の長所として、重心が低いため、海に浮かべたときに安定しやすいことが挙げられます。それともう一つ、水平軸型風車に比べて特定のエリアによりたくさん配置できる、というメリットもあります。私はこの2つの特徴に注目し、洋上に浮体式の垂直軸型風車をたくさん並べた「ウィンドファーム」(複合型風力発電施設)の設計に取り組んでいます。

先進実践学環を選んだ理由は?

私はもともと横浜国立大学の理工学部で船舶海洋工学を専攻しており、4年生のときに現在も在籍している村井基彦先生の研究室に配属されました。そこでいまの研究を始めたわけですが、大学院に進むことは早い段階で決めていました。

先進実践学環を選んだ理由としては、「国際ガバナンス」という研究分野が選択できたことが大きいです。というのも、私は専門分野以外に、ずっと国際支援にも関心があったからです。学部時代には海外ボランティアのサークルに所属し、ラオスの小学校に図書館を建てるための支援プロジェクトなどにも関わっていました。

ただ、勉強があまりにも忙しくなって、途中からボランティア活動が続けられなくなってしまって、これが自分の中で後悔として残っていたんですね。そこで、大学院に進むにあたって情報収集した結果、“地球規模の問題を解決する手法を探る”というテーマを掲げる学環の「国際ガバナンス」なら、研究と並行して国際支援に関する授業も多く受けられるとわかり、進学を決めました。

入学してわかった先進実践学環の魅力は?

学環の魅力は、やはり文理融合・異分野融合を掲げているだけあって、専門分野だけにとどまらない幅広い授業を受けられることかなと思います。

例えるなら、学部時代で言う一般教養科目の授業をより深いレベルで学べる、というイメージでしょうか。ただし、学環では他の学府の専門科目の授業に混ざるかたちになるので、ついていくのはなかなか大変でした。でもその分、学びも多いですし、自分がしっかり成長できたという実感もありますね。

印象に残っている授業はありますか?

思い出深いのは、「国際支援政策論」ですね。これはすべて英語で行われる留学生向けの授業です。40人ほどの履修者の中で、日本人は自分を含めて2人だけ。あとは全員が留学生でした。

授業内容は、5〜6人のグループごとに分かれてのディスカッションがメイン。私はとりたてて英語が得意なわけではなかったので、はじめの頃はものすごく苦労しました。参加者は中国系からアフリカ系の方まで、国籍も千差万別。出身国によってアクセントもバラバラなので、言葉を聞き分けるのがとにかく大変で。

なので最初の頃はグループワークにもまったくついていけず……。ある時、思い切って同じグループにいたガーナ人の学生にメールで相談したら、こころよくサポートしてくれ、その後も何かと助けてくれるようになったこともあり、何とか乗り切ることができました。ちなみにその学生とは、今ではプライベートでも遊ぶ友達です。もちろん、英語力もかなり鍛えられました。

今後の進路や目標について教えてください

洋上風力発電の施工に注力している大手ゼネコンに就職が内定しています。

洋上に風車をたくさん並べた「ウィンドファーム」(複合型風力発電施設)はすでに日本にもあるのですが、海底に土台を固定する「着床式」がほとんどで、海面にたくさんの風車を浮かべる「浮体式」のものはまだ少ないです。

日本の周りの海は決して浅くないこともあり、「着床式」だとコストがかかりすぎるうえ、風車を設置可能な場所も限られます。つまり浮体式のほうが、より日本の環境に適したスタイルと言えるわけです。

将来的には、浮体式の風車を日本の海にたくさん建てて、少しでも国内の安定的な電力供給に貢献できればいいな、と考えています。

受験生の方にアドバイスをお願いします

私の場合は、自分の専門分野を追究すると同時に、国際支援にまつわる授業を受け、英語を使う機会も得たい――という、割とハッキリとした意思があって学環に進学しました。

しかし、もしどういう方向に進むべきか決めかねている受験生の方がいらっしゃるとしたら、一度立ち止まって「自分の中で何が一番大切なのか?」を自問自答し、“自分の中の根拠”を探してみることをおすすめします。

就職するにしても大学院に進学するにしても、自分の中で納得のいく根拠を持っていれば、どういう道を選んだとしても大きな後悔はないと思いますよ。