西躰 優希さん
先進実践学環で何を研究していますか?
ウェアラブル端末用のバッテリーの研究を行っています。一般的なものとは違い、自在に曲げられるフレキシブルなバッテリーです。
いま、世の中にはアップルウォッチをはじめ、さまざまなウェアラブルデバイスが登場し、生活に身近なものになりつつあるのはご存知の通りです。それが最近では腕時計のように決まった形のものにとどまらず、直に体に装着するデバイスも商品化され始めています。
例えばリストバンドのように腕に巻き付ける端末や、ステッカーのように胸部に貼り付けて使うものなどですね。用途はさまざまですが、生体信号を読み込んで心拍数や心電図を記録するなど、スポーツや医療目的のものが多いです。こうした端末は“曲がる”ことが前提なので、同じように“フレキシブルに曲がるバッテリー”が必要になります。
日々、私が行っている作業で言えば、まず電極を作り、その電極を使ってバッテリーを作り、それをさまざまな状態で測定して性能評価を行う――ということを研究室や実験室で繰り返しています。
先進実践学環を選んだ理由は?
もともと私は横浜国立大学で機械工学を専攻していたのですが、学部4年の時に今も在籍している太田裕貴先生の研究室に配属され、そこで学びながら研究を始めました。でも、1年ではとても時間が足りず……。せっかくがんばってきたのに、何もまとまらないまま中途半端で終わるのが嫌で、先進実践学環に進んでさらに2年、研究を続けることにしたのです。
学部時代は機械工学EP(教育プログラム)だったので、本来なら横浜国立大学の理工学府へ進学するのが常道です。そこであえて先進実践学環を選んだのは、研究対象がバッテリーだったから、というのが大きいです。バッテリーの研究・開発というのは、機械工学の知識や経験をベースにしつつも、化学寄りのアプローチが必要です。
これはまさに先進実践学環が理念として掲げる「異分野融合」そのものですね。そこで、4つの大学院(国際社会科学府、都市イノベーション学府、環境情報学府、理工学府)が連携して授業を提供しているこちらに進学を決めました。
入学してわかった先進実践学環の魅力は?
学部時代と比べて学生の母数が少ないこともあって、授業に参加する学生数が多すぎず、とても快適でした。私の受けた授業で言えば、10人程度が多かったですね。少人数なので授業内容に集中できるし、先生との交流も生まれたりして、何かとメリットが大きかったと思います。
授業以外の時間は、基本的に研究室や実験室で過ごしています。太田研では週に1度、研究の進捗報告のミーティングが開かれるのですが、そのために自分の研究を絶えずアップデートしていく必要があるのです。これがもう本当に大変で(笑)。ただその一方で、このミーティングのおかげで難局を乗り切れたこともよくありました。
やっぱり研究を続けていると、壁にぶつかることも多いです。例えば以前、電池の充放電のシミュレーションモデルを作成する作業がうまくいかず、困り果てたことがありました。そこでミーティングで先生や先輩方にご相談したところ、すぐに的確なアドバイスがいただけて。それを元にやり方を見直して軌道修正し、問題のブレイクスルーができました。こういう経験を繰り返すうちに、論理的な思考力や精神的な粘り強さはかなり鍛えられたと思いますね。
印象に残っている授業はありますか?
何と言っても「ワークショップ」が印象的ですね。これは、先進実践学環の学生が全員参加する研究成果の中間発表会的なものです。
全員の前で発表、というわけではなく、各自がプレゼンテーションする様子を撮影したデータがアーカイブ化され、どの研究分野の発表でもオンラインで視聴できる、というもの。そこで、ほかの研究分野の方のプレゼンの様子を観ながら、みんなで内容についてディスカッションしたりするわけです。
例えば、記憶に残っているのは“癒しの音”について研究している同期の学生の発表。自分のバッテリーの研究とは直接関係はないのですが、研究内容の切り口が斬新で、すごく刺激を受けましたね。
ちなみに僕は「液体金属を用いたプリンテッドバッテリの開発」という題目でプレゼンを行い、おかげさまでベストプレゼンテーション賞を受賞することができました。
その際、自分の研究について、まったく異なる研究分野の方から質問を受けることもあります。思いもよらない方向からツッコミが入るので、「あ、こういう視点もあるのか」なんて、目からウロコが落ちることが多々ありました。いま考えれば、もし私が理工学府に進んでいたらこういう体験はできなかっただろうな、と思いますね。
また、気象学や台風力学の授業も印象深い授業でしたね。台風を専門に研究していらっしゃる先生の“台風愛”あふれる授業で、聴講するのが毎回すごく楽しみでした。
今後の進路や目標について教えてください
この2年間、日々バッテリーを作ってきてよくわかったのは、自分はつくづく“ものづくり”が好きなんだな、ということ。そこで、自分の手でものづくりができる仕事を探した結果、プリンターやオフィス向けの複合機などを製作・販売している大手機械メーカーに内定をいただくことができました。
会社に入ってからは、機械の設計や、試作機を3Dプリンターで作ったりするような業務に従事することになると思います。これまでやってきたバッテリーの研究がストレートに活かせるかどうかはわかりません。ただ、少なくとも、先進実践学環で培った論理的思考力や、物事を前に進める実践力や問題解決のための打開力。学部時代には持ち得なかったこれらのスキルが、必ず仕事の助けになってくれると信じています。
受験生の方にアドバイスをお願いします
誰しもいずれは就職し、社会に出ていくことになると思います。そして今は、専門性の高い知識・スキルはもちろん、広い視野を持って物事を判断できる総合力が重視される時代です。
その点で、文理融合・異分野融合を掲げる先進実践学環は、将来必要とされる能力がしっかり身につく環境が整っているので、進学を選んでも決して遠回りにはならないと思いますね。
もう一つ、幅広い人脈ができるのも先進実践学環の大きなメリットです。実際、私もここに在籍している間に、さまざまな研究分野の人たちと交流を持つことができました。将来的にどんな仕事をするにせよ、こうした“人とのつながり”は何にも増して大事になってくると思うので、そういう意味でもここで学ぶ意義はあるのではないでしょうか。