横浜国立大学大学院 先進実践学環

定方 勝輝さん

先進実践学環で何を研究していますか?

台風発電船とは、文字通り、台風の巨大なエネルギーを電力に変えることを目的にした全長300mほどの無人船です。世界にはまだ存在しないものですね。台風の吹き荒れる海を自律航行させ、強風を巨大な帆で受けて推進力に変え、船体に装備している直径30mほどの水中タービンによって発電を行う、という構想です。実用化されるのはまだ先の話だと思いますが、イメージとしては、例えば小笠原諸島などに基地を造り、台風が発生しそうなエリアを予測して台風発電船を向かわせ、作った電力を東京などの消費地で使う、というような運用が想定できます。台風発電船は数百隻の船団を組んでの運用が考えられているので、台風エネルギーで日本の電力の一部を賄えるようになるかもしれません。

日本でも海に風車を浮かべた浮体式洋上風力発電などが注目されていますが、風力発電の場合、台風などの強風下では安全のためにプロペラを止めざるを得ません。それに対し、この台風発電船は台風下の荒れた天候でも効率的に電力を作ることができる手段になり得ます。また、台風からエネルギーを取り出すことができれば、その分だけ台風の威力を減衰し、被害を減らすことができる可能性があります。

横国大には、「台風科学技術研究センター(TRC)」という日本初の台風の専門研究機関がありまして、この機関が「タイフーンショット構想」というものを打ち出しています。これは2050年までに台風を制御し、かつ、その一部を再生可能エネルギーとして活用しよう、という、いわば「台風の脅威を恵みに変える」ことを目的としたプロジェクトです。台風発電船のアイデアは、もともとはこのタイフーンショット構想から生まれたもの。それをベースに、僕のほうで具体的に社会実装すべく研究・開発を行っています。

研究内容としては、台風発電船に関する研究例がほとんどないため、どのような設計がいいのか考えるところからはじめました。3Dプリンターで製作した模型の台風発電船を、本学が所有する全長100mの水槽に浮かべて、さまざまな実験を行っています。特に台風発電船では巨大な帆と発電装置を搭載することが想定されているので、船の運動に与える影響について検討をしています。送風機と造波機で台風に近い環境を再現し、帆の推力のみで模型船を走らせる実験にも成功しています。

先進実践学環を選んだ理由は?

学環を選んだ理由は、異分野の授業がたくさん受けられる分、研究の幅が広げられそうだと思ったからです。

幼い頃からずっと船が好きで、いつか造船に関わりたいと思っていました。船の魅力はたくさんありますが、一番はやはりサイズの大きさでしょうか。船は人類が動かせる最大のヴィークルです。その時点でロマンがありますよね。また、生産数が少なく、一品受注生産に近いので、1隻ごとに個性があるところにも惹かれます。

こうした長年の船への憧れもあり、高校卒業後は横浜国立大学の理工学部に進学し、卒業研究では数値シミュレーションを活用した船の燃費向上にまつわる研究を行いました。そして今度は船について実験という側面から研究をしたいと思い、大学院に進むことを決意しました。その際に、横国大の理工学府と、今いる先進実践学環の2つの選択肢があり、広い分野が学べそうな先進実践学環を選択した形になります。

入学してわかった先進実践学環の魅力は?

言い方は悪いかも知れませんが、学環の魅力は“浅く広く”さまざまな分野の知識を吸収できることかなと思います。僕は理系の学生ですが、文系の授業も自由に受講できます。

異分野に触れることで、自分の研究分野だけに没頭していたら得られない刺激をたくさん受けられます。横国大の大学院では副専攻を選べるのですが、僕は「統合的海洋管理学」と「安心安全マネジメント」という2つのプログラムを履修しました。前者は生態系から造船まで海洋にまつわる様々な分野について、後者は工場などにおける事故防止に関するリスクマネジメントなどを学ぶもの。どちらも自分の研究分野に関わるものなので、非常に勉強になりました。そうした副専攻の履修がしやすいのも先進実践学環の魅力だと思います。

印象に残っている授業はありますか?

先述の台風研究機関「TRC」のセンター長である筆保弘徳先生の「台風力学」では、台風についての熱い授業を受けることができました。この授業は、学環に来たからこそ受けられたので、それだけでも来てよかったな、と思いますね。

また、「ワークショップ」という学環の学生が全員参加する研究成果の中間発表的な授業も印象深いですね。これは各自が自身の研究をプレゼンテーションし、その映像を学生がオンラインで視聴し合い、分野を越えて自由にディスカッションする、いわば学環の名物授業です。

例えば、台風の中にヨウ化銀を撒くことで台風の力を減衰させる「シーディング」にまつわる研究をしている方がいて、同じく台風のパワーを電力に変える船を開発している僕にとっては、非常に興味深いものがありました。

今後の進路や目標について教えてください

海運会社 に就職が決まっており、来年から機関士になるための2年間の自社養成コースに参加し、将来的には実際に船に乗って働く予定です。機関士とは、エンジンのメンテナンスを始め、発電機などの保守点検などを行う職種ですね。船を造りたくて大学に入ったのに、気づいたら乗る方になっていました笑

学環では模型船を水槽に浮かべてさまざまな実験を行ってきましたが、これからは実際の船に乗ってより具体的に現場経験が積めるので、すごく楽しみです。理系というバックグラウンドを活かしながら、今後も船の技術発展に「現場」という視点から、少しでも貢献できればと思っています。

受験生の方にアドバイスをお願いします

大学生のうちに、自分のなりたい将来像を描き、本当に興味のある研究内容をしっかり探すことをおすすめします。その上で、いろんな研究分野にまたがるような研究がしたい人は、学環への進学は大いにアリな選択肢だと思います。頑張ってください。