横浜国立大学大学院 先進実践学環

対談:東 陽輝さん×山口 佳恋さん

――今日はよろしくお願いします。まず自己紹介をお願いできますか?
山口:山口佳恋(やまぐち・かれん)です。先進実践学環での研究分野は「横浜アーバニスト」で、野原卓先生の「都市計画研究室」に所属し、都市のパブリックスペースに関する研究を行っています。

東:東陽輝(ひがし・はるき)です。僕も山口さんと同じ分野・研究室におりまして、3D都市モデルの利活用について研究しています。

――お二人の具体的な研究内容を教えていただけますか?
山口:私は以前から都市の道路や駅前の広場などのパブリックスペースに興味がありまして。学部時代は、東京・丸の内エリアの路上のパブリックスペースに着目し、どういう空間に何人いて、何をして過ごしているのか実地調査を行い、「屋外パブリックスペースにおける滞在快適性」という論文にまとめました。

学環では、その論文の内容をより掘り下げ、数値的に裏付けられるような研究がしたいと思っています。ただし、今回は道路空間ではなく、オフィスビルのエントランス付近にある広場やアプローチなどの「公開空地」がターゲット。エリアも丸の内に限らず、横浜のみなとみらいなど、さまざまな候補地を検討中です。

公開空地は、昔はただのガランとした空間だったのですが、2010年代くらいから、椅子やテーブル、電源タップなどが設置され、誰もが自由に使えるような空間に様変わりしています。そうした空間で人はどう過ごしているのか、あるいは人が過ごすにはどういう条件が必要なのか、というようなことを研究しています。

――東さんはいかがですか?
東:学部時代から続けている研究テーマは、「3D都市モデルの利活用」です。国土交通省が2020年に発表した「PLATEAU(プラトー)」という3D都市モデルがあります。これは都市計画や都市デザインに誰でも自由に活用できるオープンデータ。建築物が並ぶ実際の街並みを立体的にさまざまな角度から見ることができるのですが、建築物のディテール――窓や造形までは完全に再現されていません。

となると、必然的に建築間の風の通り方や日照具合などの分析に利用されることが多く、都市および建築そのもののデザイン面の評価などに活用されるケースはまだ少ないのが現状です。そこで学部時代は、主にこの3D都市モデルをデザイン面においてより活かすにはどうすべきかについて研究していました。

そして今、学環ではそれをさらに発展させ、タンジブルインターフェースを用いた研究に取り組んでいます。具体的には、プラトーの3D都市モデルのデータをUnityというゲームエンジンに取り込んで構築したデータに、実際の模型をリンクさせ、それによって都市デザインを評価していく、というもの。

模型とデータが相互につながっているので、実際の模型のビルを動かすと、PC内の3D都市モデルでも同じビルが同様に動きます。これをさらに発展させれば、VRヘッドセットを装着して仮想の街を歩くこともできるようになります。つまり、まちづくりを行う際に、さまざまなシミュレーションがより自由に行えるようになるわけです。

――お二人が先進実践学環を選んだ理由は?
山口:私はもともと横浜国立大学の都市科学部の建築学科の出身です。学部時代から都市をテーマに研究していますが、さらにそれを掘り下げたくて修士に進もうと決意したわけですが、その際に、いま所属している「都市計画研究室」の先輩にお話を聞く機会があったんですね。

先輩の研究分野はもちろん都市計画にまつわるものだったんですが、歴史の勉強も両立している、と話しておられたのが印象的で。これはまさに異分野融合を掲げる先進実践学環ならではだな、と。そもそも都市というのは文理を越えて、あらゆる要素の集積でできているもの。それを研究対象とするには、多角的な視点と知識が必要だと思い、さまざまな分野の授業を選択できる学環に進学を決めました。

東:僕は山口さんと違って、外部から進学してきた学生です。もとは芝浦工業大学の建築学科で学んでいました。そこで、野原卓先生が非常勤講師として授業をされていたんです。その授業内容に心惹かれ、先生のもとで研究をしようと思ったというのが一つ、そしてITをしっかり学びたいという気持ちもあったので、やはり受講できる授業の幅が広い先進実践学環を選びました。

――印象に残っている授業はありますか?
山口:学環では毎年11月にすべての学生が参加する「ワークショップ」という授業があります。これは学生が自身の研究成果をプレゼンテーションし、それを動画にして学部を越えて視聴し合って議論を深める、というもの。

東:それぞれの動画にディスカッション機能が付いており、そこで自由に質問をすることができて、これが思った以上に活発な議論を生むんです。

山口:そうそう。例えば医療関係の研究をしている方に、私が都市デザインの観点からバリアフリーについて質問を投げかけたり、逆に、公開空地についてプレゼンした私に対し、「お寺の境内も公開空地として使えないんでしょうか?」といった意外な質問が来たり。さまざまな研究分野の人たちと議論を交わせたことは、とてもいい経験になったと思います。

東:僕は「IT学通論Ⅰ」という授業が印象に残っています。これは1週間に1人ずつ先生が入れ替わり、それぞれの研究分野について講義をするオムニバス形式の授業なんですが、例えばHTMLの作り方や暗号化の仕組みなど、これまで触れてこなかったコンピュータ関連の基礎的な歴史について学べたのはよかったですね。

それと、日本史を研究されている多和田雅保先生の「日本史研究Ⅰ・Ⅱ」。これも刺激的な授業でした。僕はそれまで都市空間というのは文字通り“空間”だと思っていたのですが、多和田先生曰く、「まったく違う価値観を持った人が集まって初めて都市になる」というようなことをおっしゃられていて。建築物などのモノだけでなく、都市を形成するには人が重要なんだな、ということに改めて気付かされました。

――実際に入学してわかった先進実践学環の魅力は?
東:キャンパスに来るキッチンカーのご飯が旨いところですね(笑)。僕のお気に入りは「牛タンのステーキ」と「ロコモコ」のお弁当です。

山口:確かにキッチンカーのお弁当は美味しいね(笑)。一日4台くらい来るんです。私はタイ料理のカオマンガイのお弁当をよく買います。

東:それと、キャンパスに自然が多くて、植物はもちろん、動物もたくさんいるのも環境的に最高ですね。猫も2匹いて、みんなに可愛がられていますし。あと山口さん、意外とリスも走ってるよね?

山口:あー、いるよね! そういえば除草用のヤギも飼われてるし、意外とワイルドなんです(笑)

――お二人の今後の進路や目標について教えてください
山口: 私はいま就職活動の真っ最中ですが、希望としては総合デベロッパーに就職し、公園や広場も含めた都市開発に携わりたいと思っています。せっかく学環と「都市計画研究室」で都市計画の手法を学んだわけですから、それを駆使して、人がより快適に過ごせる空間づくりに寄与できればと考えています。

東:僕の場合、やりたいことは一貫していて、3D都市モデルを始めとするさまざまなデータを活用しながら、街をより豊かに発展させたい、という大目標があります。そして今、就活でアプローチしているのは主にITコンサルティング系の企業です。長年、都市を研究してきた人間としての知識・経験に、IT企業が持つデータを加味しつつ、将来的には都市のDX化などを担っていけたらなと思っています。

――最後に受験生の方にアドバイスやメッセージをお願いします
東:自分のやりたい研究に広い視野をもって取り組める。これが学環の良さだと思っています。4つの大学院(国際社会科学府、都市イノベーション学府、環境情報学府、理工学府)の授業を受けられるので、自発的にやりたいことがあれば、いくらでも叩ける門戸があると言いますか。

山口:私も学環の“幅広さ”は大きな魅力だと思っています。研究のために、理系・文系の壁を越えて学ぶことができますし、異分野の刺激に触れられるチャンスも多いので、自分の研究の幅がグッと広がるんじゃないかと思いますね。

東:ちなみに僕の場合、野原先生の「都市計画研究室」で研究がしたくて学環に来たわけですが、実は研究室に入る方法は2パターンありました。一つは横浜国立大学の都市イノベーション学府に入学する方法、2つ目が先進実践学環の横浜アーバニストに入る方法。僕はどちらも受験して合格していたんですが、やはりより幅広く学びたいという思いが強かったので、学環を選びました。受験生の方の参考になればと思います。