横浜国立大学大学院 先進実践学環

瀬川 悦生 先生編(専門:応用数学/研究テーマ群:応用AI)

今回のインタビューは応用数学がご専門の瀬川悦生先生にお伺いします。

Q. 瀬川先生のご専門は、応用数学とのことですが、応用数学とはどのような分野でしょうか。

瀬川 私の専門は応用数学で、とくに量子ウォークを研究の対象にしています。量子ウォークは量子版の「はしご酒」のようなものです。立ち飲み屋さんがたくさん並んでいる通りで、お店をはしごして歩く人のことを考えてみます。前にいたお店の記憶も忘れるほどだいぶ呑んでいて、それでもなお、まだ色んなお店で飲み続けたいという思いだけで動いている人が、隣の店、また隣の店と、はしご酒を続けていくと次にどのお店に移動するかはある程度ランダムとも言えるでしょう 。このようなモデルは、ランダムウォーク(まさに日本語では酔歩)と呼ばれます。 この確率を量子化したものが量子ウォークです。そして、量子ウォークは通常の確率で考えるランダムウォークの場合とは大きく異なった意外な結論が出てくることがあり、そしてその原因となるランダムウォークとは違った背後にあるネットワークの構造を抽出することができて面白いのです。
さらに、このような数学的側面だけでなく、量子ウォークは量子探索アルゴリズムの基礎的な数理モデルを提供しており、その意味で量子コンピューターとも切っても切り離せない関係にあります。量子ウォークに関連する研究は現在非常に盛り上がっています。実は横浜国立大学は、量子ウォークに関する論文が世界でまだ年に数本しかないような黎明期の段階から先駆的に研究を続けてきた量子ウォーク研究の一大拠点です。

Q. 研究テーマの魅力を教えていただけますか。

瀬川 研究テーマは、比較的予備知識を必要とせずに理解できるという意味で敷居が低く、ひらめきやセンス次第で、量子性が起因する非直観的な面白い発見ができる可能性があるところが魅力です。加えて、量子コンピューターへの波及が示すように、いろんな専門分野の問題とつながっていけること、量子ウォークという1つのキーワードを通じて、多様な分野と交流していけることが非常に面白いです。私も、純粋な量子ウォークの数理的側面の探求だけでなく、横国の量子光学の研究室と共同で実験のデザインを行ったりしています。また、私が学環で担当している「量子探索特論」でも、量子ウォークに関わる数学的トピックを学ぶだけでなく、昨年度は受講生の研究内容を共有し、量子ウォークの問題との接点を探りました。

Q. このインタビューでは、「私の1冊」としてオススメの本を伺っております。先生からはどのような本をご紹介いただけますか。

瀬川 研究に関連した書籍として、次のものを紹介したいです。

① 量子ウォークについての入門書。
今野紀雄『量子ウォーク』森北出版、2014年
町田拓也『図で解る量子ウォーク入門』森北出版、2015年

② 最新の量子ウォークの理論動向が記載されているもの。私も本書に携わっています。
今野紀雄・井手勇介『量子ウォークの新展開―数理構造の深化と応用』培風館、2019

③ 最後は量子探索アルゴリズムについてわかりやすく解説した本を紹介します。
Renato Portugal, Quantum Walks and Search Algorithms (Quantum Science and Technology), Springer, 2018

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

瀬川 専門的に掘り下げるというところがなければ、つながりの面白さや意外性の発見の感動も半減してしまうので、幅広い視点と専門性の両方を兼ね備えることができるようになりたい方、大歓迎です!

瀬川 悦生

横浜国立大学大学院環境情報研究院 准教授。量子ウォーク、確率論、スペクトルグラフ理論の研究に従事。代表論文として「Electric circuit induced by quantum walks, J. Stat. Phys. (2020) 」などがある。