横浜国立大学大学院 先進実践学環

河潟 俊吾 先生編(専門:海洋地質学/研究テーマ群: リスク共生学)

今回のインタビューは海洋地質学がご専門の河潟俊吾先生にお伺いします。

Q. 先進実践学環のホームページにある動画では、地質学がご専門と仰っておりましたが、どのような研究分野なのでしょうか。

河潟  最も大きな専門分野のくくりで言えば地質学なのですが、もう少し詳細に言えば海洋地質学、さらに海洋微古生物学となります。長い時間かけて海底に降り積もった地層を調べて、そして過去の海洋環境を復元する、という研究です。したがって、古環境学も研究分野を表すキーワードとして使われます。

地球の表面積の七割が海ですから、それだけ地球には海底があるということになります。そして、海の底に様々なものが降り積もって地層ができますが、陸上と異なり海の中は雨風にさらされないので、地層がきれいに保存されるんですね。ですから、海底を掘って採った地層を調べると、様々なことがわかります。

海洋地質学の中でも海洋微古生物学は、海の中に生きていた小さな生物の化石を地層の中から拾い出して調べます。昔のある環境に適応した生き物が生きていて、やがてそれが地層の中に降り積り化石になるので、地層の中の化石の種類をもとに環境の変化を推定することができます。

Q. 貝や恐竜のような化石と異なり、先生が対象とされている小さな生物は化石が残ることが想像できませんでした。微生物が環境の推定に結びつくのですね。

河潟  私が調べている化石は、みなさんが知っている名前で言うと“星砂”の仲間です。沖縄のお土産屋さんで星砂として売られていますが、あれは実は海岸に残った単細胞生物の骨格です。今私が調べる対象にしている生物は、星砂の元になっている生物の仲間です。星砂よりも小さく、1mmにも満たないのですが、地層の中に結構残っており、電子顕微鏡などを使って観察します。

Q. 研究でエキサイティングな点について教えていただけますか。

河潟  人間の歴史であれば、例えば昔の古文書や遺跡などを歴史学者や考古学者が調べますよね。まあ地質学全般に言えますが、地球の歴史を明らかにするのは、私たち地質学者の仕事です。地球の歴史上、いつ何が起こりましたよ、というような、年表上の出来事を見出していくだけでなく、それが起こった背景にはどんな科学的なカラクリがあったんだろうか、という点も同時に明らかにするのが私たちの仕事です。誰も見た事もない昔の地球の姿を復元する、というところに面白味があるのかなと思っています。

Q. 大変スケールが大きい分野ですね。河潟先生が調べている地層はだいたいどれぐらい前のものですか。

河潟  私が中心に研究しているのは過去100万年間、古いと500万年間ぐらいまでの地層まで扱う事はあります。研究の試料は海中深く、2000~3000mの海底から採取してきます。個人の力だけでは採取できないので、学生のときから何度か海底を掘る海洋調査船に乗って、海底の調査試料を手に入れてきました。今は、国際共同プロジェクトや、国内の研究プロジェクトに参加して調査を行うこともあります。

Q. 授業ではどのようなことを学べますか。先生がご担当する授業の内容についてご紹介いただいてもよろしいでしょうか。

河潟  先進実践学環では2つの講義を提供しています。1つは「海洋地質学」です。ご説明してきたとおり海底には地層が長い年月をかけて堆積していますので、海底の地層を調べる上で知っておくべき事項、例えば海底にはどういう種類の地層があるのか、海底では何が起こっているのか、ということを地質学の視点で解説をする授業です。

もう1つは「古海洋学」です。過去の環境はタイムマシーンが無いと観に行けませんが、過去の研究の積み重ねによって明らかになっている過去の海洋環境を解説します。また、過去の海洋環境を復元する方法を、様々な角度から解説をします。これまでの調査で分かってきたことを解説しています。

Q. このインタビューでは、「私の1冊」としてオススメの本を伺っております。先生からはどのような本をご紹介いただけますか。

河潟  紹介したい本として、大河内直彦 著『チェンジング・ブルー:気候変動の謎に迫る』(岩波現代文庫)を挙げたいと思います。これは現役の生物地球化学者が書いた本ですが、この分野の研究者にとって絶対に外してはいけない知識、それを明らかにした過去の研究や、それを明らかにした研究者の努力や出来事を解説している本で、非常に面白く読めます。この分野に取り組もうとする方には非常に良い入門書です。大学院入学を考える大学生にも良い1冊です。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

河潟  私は深海という場所の面白さ、ユニークさに興味を持って研究しています。1969年に人類は宇宙に行って、月面に降り立ちました。ですが、2021年の時点で私たち人類は深海底に直接降り立ったことはまだないのです。それは深海という場所が、水圧が高くて、非常に暗くて、そして非常に冷たいという、過酷な状況だからなのですが、そういう場所でも生物が今も昔も生きていて、ゆっくりと長い時間地層が溜まり続けています。深海という場所が私たちに残された地球上の最後のフロンティアと言われたりもしますが、フロンティアの研究材料を使って、誰も見たことがない地球の昔の姿を復元することができるとしたら、それは非常に面白いことだと思います。新たにこの分野にチャレンジしてくる学生や、ほかの大学・機関の研究者たちと一緒だったらなおさら楽しいと思いますので、ぜひチャレンジしてほしいです。

河潟 俊吾

横浜国立大学教育学部 教授。微化石を用いた古海洋環境変動の解明、津波災害後の内湾閉鎖環境変遷の解明などの研究に従事。