横浜国立大学大学院 先進実践学環

大雄 智 先生編(専門:会計学/研究テーマ群: 社会データサイエンス)

今回のインタビューは会計学がご専門の大雄智先生にお伺いします。

Q. 大雄先生のご専門は、財務会計とのことですが、会計学とはどのような分野でしょうか。

大雄  会計といいますと、おそらくお金の計算を連想する方が多いと思います。「会計」という言葉は、英語ではアカウンティング(accounting)といいます。このアカウント、という言葉には説明するという意味があります。会計にはお金の計算という側面ももちろんありますけれども、本質的には、企業や組織の経営成績や財務状況を利害関係者に伝えて説明責任を果たす、という役割があります。つまり、ビジネスにおけるコミュニケーションの手段の1つということができます。
企業の経営成績、つまり利益を測るということは案外難しいもので、私たちの学力を測ることとよく似ています。身長や体重などを測るのに比べると、学力を測ることはとても難しくて、測定結果の妥当性と信頼性がいつも問われることは、皆さんもお分かりだと思います。企業の利益や「稼ぐ力」などを測ることにもよく似た難しさがあります。
さらに、学力と同様に利益は目に見えるものではありません。だからこそ、その数字が一人歩きをして人々の意思決定や行動選択を左右してしまうことがあります。このような特徴を踏まえて、利益を測定するためのルールのシステムやデザインを検討するのが私の専門分野です。

Q. 研究でエキサイティングな点について教えていただけますか。

大雄  先ほど会計はビジネスにおけるコミュニケーションの手段の1つ、と言いました。会計は、企業とその利害関係者をつないで取引を成立させたり、継続させたりすることに貢献します。さらに、市場経済のインフラの1つであり、資源の配分や所得の分配などにかかわる制度になっています。私が研究の対象としている会計のルールは、実はそれほど硬直的なものではなくて、社会経済環境の変化に応じて揺らいだり変化したりするものです。例えば企業、あるいは市場がグローバル化すれば会計のルールもグローバルに、共通したものに近づけようという動きが出てくるのは自然なことです。会計のルールのシステムが共通であれば、そのアウトプットである会計データを国際間で比較することもそれだけ容易になるからです。
さらに最近では、所得格差の問題や環境負荷の問題が注目を集めています。その流れに応じて会計ルールのデザインを見直そうという研究者もいます。私自身も最近はこれまで以上に「利益の分配」という側面について考えることが多くなりました。衡平な会計制度とはどういうものか、ということを考える機会が以前に比べると増えたと思います。こういった社会や経済の環境の変化が会計に与える影響を考えていく中で、しばしば、会社の目的とは何か、市場の役割とは何か、というファンダメンタルな問いにつながることがあります。そういった問いを納得できるまで考えるところが面白いところだと感じています。

Q. 計算の仕方というよりは、インフラやシステムとして考えて、背景にある社会でのあり方について考えて行くという学問なのですね。先生の授業ではどのようなことを学べますか。

大雄  私は「財務会計特論」という科目を担当していますが、この授業では会計ルールのシステムの基礎にある視点や概念を学びます。それと同時にそのシステムのアウトプットである会計データを使って、企業の事業分析や価値評価を行う手法も学びます。さらに、会計学の理論研究や実証研究を理解するための知識も身につけられるようにします。
会計のデータとそれを加工した情報は、企業外部の利害関係者の意思決定に役立つことが期待されています。 一方で、それらは企業外部の利害関係者の意思決定がフィードバックされたりフィードフォワードされたりして企業内部の経営者や管理者の意思決定や行動選択にも影響を与えると考えられます。会計データ、あるいは会計情報をめぐる人々の認識や行動について、自分なりの仮説が構築できるようになると、この分野は非常に面白くなると思います。

Q. このインタビューでは、「私の1冊」としてオススメの本を伺っております。先生からはどのような本をご紹介いただけますか。

大雄  『事業再編会計 資産の評価と利益の認識』(国元書房)という本です。これは私が書いた本ですが、合併や買収といった事業再編取引での会計ルールを題材にしたものです。事業再編によって企業の利益率が変化することがしばしばありますが、利益率の変化というのは、その企業の収益性や成長性だけではなくて、会計処理の方法そのものによっても生じることがあります。適用される会計処理の方法の違いによって、事業再編後の経営成績や財務状況の見え方が大きく変わるということがあり得ます。この本では、様々な事業再編取引の会計ルールについて、その基礎にある視点と概念を検討しています。またこの本では、日本企業の事業再編取引のケーススタディをとおして、会計ルールが見落としていた論点や整理されないまま放置されていた論点を明らかにする作業も行いました。このテーマは、会社の事業をどう捉えるか、会社と株主との関係をどう捉えるか、という問題につながっていて、今でもこの問題意識に沿って研究を続けています。

事業再編で関係してくる様々な側面のうち、会計の面からケーススタディを通じて学べる本なのですね。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

大雄  会計をはじめとするデータは、収集・加工されて情報に変換され、そしてその情報を分析・洞察することにより知識に変換されます。さらに、その知識を整理・活用することにより知恵に変換されます。このようなプロセスにおいて、知識を知恵に変換する作業の面白さをこの先進実践学環の学びの中で経験してほしいと考えています。データ分析はもちろん大切ですが、分析した結果をいかに組織の価値の創造につなげるか、という点はとても重要だと思います。そのような観点から幅広い分野の学問を学んだり、人と交流したりしていただきたいと思います。

大雄 智

横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 教授。博士(経済学)。2001年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2001年横浜国立大学経営学部講師、2002年同助教授、2007年同准教授を経て、2014年より現職。専門は会計学。著書に『事業再編会計 資産の評価と利益の認識』(国元書房, 2009年)がある。