横浜国立大学大学院 先進実践学環

満行 泰河 先生編(専門:船舶などの大規模構造物を対象としたシステム設計分野/研究テーマ群: リスク共生学)

今回のインタビューは船舶などの大規模構造物を対象としたシステム設計分野がご専門の満行 泰河先生にお伺いします。

Q. 満行先生のご専門はどのような分野でしょうか。

満行  専門としては、「設計工学」や「システム工学」と呼ばれる分野です。これを船舶・海洋工学に適用させよう、というのが私の研究内容です。ひと言で言えば、「ITを使って、熟練者がやっているさまざまな難しい仕事を、誰でも効率的にできるようにする仕組みづくりの研究」という感じでしょうか。

例えば、メインの研究対象として「造船の効率化」があります。ここで言う船とは、主にタンカーやコンテナ船などの、いわゆる“商船”ですね。こうした船は、同じモデルを大量生産する自動車と違い、基本的には一品受注生産。目的に応じて一回しか造らないものも多く、かつ、船の種類や大きさも千差万別。しかも、船体に使う鉄板などは、熟練の職人が感覚的にミリ単位で曲げて作っていたりする。つまり造船は自動化が難しく、いまだに人間がメインで建造するのが当たり前の世界なのです。

昨今は全長400mを超すような大きな船もあります。ここまで巨大なものを人の手で造るとなると、設計は言うに及ばず、船体に使う素材の選定から溶接・アッセンブルの方法、組み立ての手順に至るまで、気が遠くなるほど多くの判断が求められます。そうなると建造に膨大な時間がかかるうえ、費用対効果も悪化しがちです。

こうした課題解決のため、システム工学を応用したより戦略的・合理的な造船のシステム構築について、企業さんとも協力・連携しながら研究しています。

また、造船の効率化と同じような考え方で、船の自動運航と運航の効率化の研究にも取り組んでいます。

船長や乗組員たちは、我々が想像する以上に高度な判断を迫られる場面が多いんです。例えば東京湾などは膨大な数の船が運航しているので、湾を横切るだけでもすごく大変です。天候や波の高さ、水深など基本的な状況を考慮し、ほかの船と連絡を取り合いつつ適切な航路で安全に運航する……。とにかく業務が複雑なので、当然ながら専門的なトレーニングを受けた人間でないと船を動かすことができません。

そこで、これらの複雑な業務を、機械化やAIによる自動化などの恩恵を受けつつ、最小限の人数とトレーニングで誰でもできるようにできないか、ということも考えています。例えばレーダーと画像を連携させて自動車のバック駐車サポートのような、船の運航をちょっとでもラクに安全にしてくれる技術と仕組みづくり。こうした研究は、少子高齢化・人口減少が進む日本では、今後ますます重要になっていくと思っています。

Q. 研究テーマの魅力、エキサイティングな点を教えていただけますか。

満行  船舶の運航や安全性の向上のための海事分野のルール作りやその周辺の活動に、ダイレクトに携われるのは大きな魅力ですね。

世界175カ国以上が加盟する国連の専門機関で、国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)という組織があります。主に船舶を始めとする海事分野の問題解決や世界的なルール作りを担う組織で、本部はロンドンにあるのですが、最近、この会議に私も参加しておりまして。

国を代表して、というのは少し大げさですが、日本としての意見を開陳したり、各国の代表と議論を交わしたりしています。当然、それぞれの国によって思惑があるので、意見がぶつかることもありますが、そこを議論して詰めて、それをルール化していくわけですね。こうした国際的な海事分野のルール整備に貢献できるのは、この研究の夢のある部分だと思いますね。

Q. 先生の授業ではどのようなことを学べますか。

満行  「船舶設計システム工学論Ⅰ・Ⅱ」という授業では、システム工学に相当する最新の技術と傾向について講義を行っています。大きな特徴としては、船舶設計の技術だけでなく、ステークホルダー(利害関係者)との関係性などについても学べる点ですね。

これは船舶の世界に限った話ではありませんが、いくら立派な技術を持っていたとしても、自分だけの狭い世界に閉じこもっていてはそれを広く普及させることはできません。よく日本の産業のダメなところとして挙げられる、“モノは良いけど売れなかった”というパターンですね。

未知の技術を一般に広めるには、それが普及した場合に、業界や業界に関わるさまざまな人たちにどういう影響を及ぼすのかをあらかじめ考え、理解してもらう必要があるわけです。

だから学生には「自身の技術プロジェクトをデザインする時は、ステークホルダーとの関係性まで含めて考えなさい」と教えていますし、毎年、最後の講義では、学生自身の研究テーマを、企業の方にも通じるように、という条件でプレゼンしてもらっています。

マスターコースの学生向けの講義ですから、当然、受講している学生たちはそれぞれ自分の研究に一生懸命取り組んでいます。しかし、そこからさらに進んで、常に一歩引いた目線で客観的に自分の研究を見て、その研究を社会実装するところまで考え抜いてほしいと思います。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

満行  先進実践学環は“文理融合”を掲げているだけあって、良くも悪くも自分の専門分野だけにとどまらない領域横断的な時間の過ごし方を求められます。

そのメリットは、ひたすら自分の専門分野の研究に没頭するだけでなく、自身の研究の社会的価値なども確認しながら、具体的に社会実装するところまで見据えてプロジェクトを考える力が養われることだと思います。

いずれみなさん、社会に出て企業に入れば、企画・研究などのプレゼンテーションを通して、周りの理解を得ていく機会が相当数あるはずです。一つのことを掘り下げる力に加え、相手に伝え理解してもらう能力、これらを、この先進実践学環でしっかり身につけてほしいですね。