横浜国立大学大学院 先進実践学環

岡田 哲男 先生編(専門:船体構造設計・構造解析/研究テーマ群: 国際ガバナンス)

今回のインタビューは船体構造設計・構造解析がご専門の岡田哲男先生にお伺いします。

Q. 岡田先生のご専門である船体構造設計や構造解析とはどのような分野でしょうか。

岡田  この分野についてご説明する前に、まず船舶海洋工学とは何かということをご説明すると分かりやすいと思います。船舶工学、あるいは海洋工学と聞くと、割と成熟した産業に関する学問である、というイメージを一般の方は持たれているのではないかと思います。ところが、現在の船舶工学の置かれている状況を見ますと、グローバリゼーションや、世界的な経済発展に伴う海上荷動きの増大などを受けて、船舶自体の姿が目まぐるしく変化しています。例えばコンテナ船の大型化は目覚ましく、ここ10年20年の間に2~3倍の大きさとなり、今日では20フィートコンテナ換算で24,000個ものコンテナを積載できる巨大コンテナ船が出現しています。また、地球温暖化対策のためのGHG削減、特に水素やアンモニアなどの代替燃料の有効活用や燃費改善など、様々な技術的なチャレンジがある業界です。

海洋工学についても、分野の創成期は海洋油田や海洋ガス田など、化石燃料関連の開発でした。近年は、洋上風力発電や海流からの発電、温度差発電、波力発電など海洋の持つ豊富なエネルギーに着眼して、再生可能エネルギーとして利用しよう、という動きがあり、非常に大きく変化しています。

その変化を構造強度という観点から見ると、構造物の大型化や機能の変化に伴い、今までに経験したことのない落とし穴に陥ることによって大きな事故が発生してしまうという危険性が考えられます。そのような事故を起こさないようにするために、どのような構造設計が適切なのか、その問いを解決するために、船体構造設計、そして船体の構造解析の基盤技術を確立していこうという、という学問だと理解していただければいいのかなと思います。

Q. 研究でエキサイティングな点について教えていただけますか。

岡田  私は現在、船体構造のデジタルツインといった方面の研究をしております。船体は、波浪の中で非常に大きな波浪荷重を含めた様々な荷重を受けながら運航しています。デジタル空間上にその精緻なモデルをつくって、そのモデルに対して現実と同じ荷重を作用させ、船体構造各部の部材がどのような応力履歴を受けたのかというシミュレーションをして、総ての記録を残します。すると、船が受けてきた構造荷重、応力の履歴がすべてわかりますから、どの部材にどの程度金属疲労が蓄積されているか、どれくらいで亀裂が発生する可能性があるか、じゃあその情報を用いてどういうふうに最適なメンテナンスが出来るか、といったより精度の高い計画ができるようになっていくわけです。

このような大きなプロジェクトは大学単独ではできませんので、業界をあげた共同研究となります。業界全体としてダイナミックにお互いに切磋琢磨しながら変化して新しいことを生み出していける、という点は非常にエキサイティングな点かなと思います。

さらに、最新のデータサイエンスを使う点もあります。私の分野は構造力学に立脚しており、これは非常に古典的な力学に立脚しています。例えば、船体のモニタリング結果から物理モデルに基づいてその場の波浪のスペクトルを推定して、それにシミュレーションで得られる船体の任意の部位の応答関数をかければ、船体のあらゆる箇所の応力履歴が得られる、ということを行っています。これは力学に立脚していますが、同時に、大量のデータを扱うために航海中に逐次得られる情報をベイズ更新して行く手法ですとか、あるいは一部に機械学習を使う、といった、最新のデータサイエンス手法を応用しています。古い知識に立脚したものに、さらに新しい知識や新しいノウハウを加えより良いものにしていく、ということが出来る点も非常に面白い点と思っています。

Q. 先生の授業ではどのようなことを学べますか。

岡田  学環では「リスクペースによる規則制定手法」を担当しています。これはオムニバス形式の授業で、例えばIMO国際海事機関に日本代表として参加された経歴などをお持ちの業界では重鎮の先生ですとか、規則の制定や船舶の検査に長年携わってきた非常に経験豊かな方ですとか、そういったような方を交代で招いて、船体構造の安全性や海洋環境保全のために規則を制定する主体、あるいは国際的な条約や規則の枠組みのあり方について、色々な実例を交えながら説明していく、という非常に面白い授業だと思います。この授業を聞けば、船舶の安全性や海洋環境を守ろうとする努力が、いかに国際的な枠組みでなされているのかということがよくわかるのではと思います。

Q. このインタビューでは、「私の1冊」としてオススメの本を伺っております。先生からはどのような本をご紹介いただけますか。

岡田  1冊目は「Design of Ship Hull Structures」です。私はもともと造船会社に在籍していて、そこで構造設計を担当していました。この本は、構造設計の大先輩の方々を含めて4世代にわたって蓄積された技術を集大成して書いたもので、船体構造設計の入口から実際の応用例、あるいは損傷例とそれに対する対策など、非常にたくさんの内容を盛り込んでいます。船体構造設計や安全確保の為にやらなければならないことについて、この本で網羅されていると思います。

もう1冊は「材料力学構造強度設計の基礎」です。私共のEPでは学部の2年で勉強する材料力学の教科書として書いた本です。特色・特徴として、船体構造とか海洋構造物の構造など、大規模構造物の構造設計ということを念頭に書いたので、大型構造物の実例を数多く織り込みながら、初歩の材料力学を解説してますので、学び直したいという学生さんには非常に有効な本だと思っています。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

岡田  海事関係の産業は世界経済の変化に従って産業の姿自体も非常にダイナミックに変化しています。そして、船舶海洋構造物は世界中どこにでも海を通って、自分で動いていけます。したがって、世界がひとつのマーケットであると言っても過言ではないです。この世界に足を踏み入れたら、日本だけでビジネスが完結するということはあり得ません。世界を相手に仕事をしなければならないという産業だと言えます。その国際性や、常に変化し続けるダイナミックさ、そういったことを味わいたい方には、学環で海事関係のいろんな講義が用意されていますので、興味の向くまま首を突っ込んでいろいろ勉強してもらいたいと思います。

岡田 哲男

横浜国立大学大学院工学研究院 教授。船体構造設計、構造安全に関する研究に従事。著書に『Design of Ship Hull Structures – Practical Guide for Engineers』(共著,Springer,2009年)、『材料力学 構造強度設計の基礎』(共著,朝倉書店,2021年)などがある。