横浜国立大学大学院 先進実践学環

新谷 康浩 先生編(専門:教育社会学/研究テーマ群: 人間力創生)

今回のインタビューは教育社会学がご専門の新谷康浩先生にお伺いします。

Q. 新谷先生のご専門である 教育社会学とはどのような分野でしょうか。

新谷  教育を対象とした社会学で、社会関係という観点から一般社会と教育の間の関係、あるいは教育内部の関係を見ています。文法をイメージして頂くと分かると思いますが、普段使っている時には意識していなくとも、暗黙のうちにそのルールに縛られているものがあります。そのルールが社会関係です。我々が暗黙のうちに縛られている社会関係の中でも、教育社会学の場合、教育の場における暗黙のルールを解き明かしていく学問です。

Q. 研究でエキサイティングな点について教えていただけますか。

新谷  私は特に職業との関連で教育を研究していますが、それ以外にも教育社会学という分野には幅広いテーマがあります。例えば、教育機会が社会階級や経済力によって規定されているのでは、といった様々な面白い研究が行われています。我々は通常こういう風に考えているけれども、どうも違ったルールで物事が決まっているのではないか、と読み解いていく過程が、非常に面白い分野だと私は考えています。

Q. この業界だと暗黙のルールが多いな、ですとか、ドメイン毎での違いというのはありますか。

新谷  もちろんあります。日本の中でもありますし、学校という組織でもあります。そして、それが普遍的ではなくて、特定の集団の暗黙のルールと、また別の隣にいるルールで違っているわけですね。暗黙のルールの違いが、ぶつかり合ったり結びついたりすることによって、別の仕組みが生まれてきたり、ひずみが生じてきたりします。自分たちの捉え方だけではわからなくて、比較したり、やや1歩引いた形によって、ずれや、予想外の結びつき方が見えてくる、そこを研究する学問分野ですね。

Q. ある集団の中にいれば、ルールの存在を知ることはできますが、それが暗黙の了解か他の集団でも通じるルールなのかはわからないですよね。逆に、集団の外、アウトサイダーの立場から見ると、集団で共有されている暗黙の了解とわかりますが、そのルールを見つけることは非常に大変な作業なのではないかと想像するのですが、なにかコツがあるのでしょうか。

新谷  集団1つとっても必ずしも1枚岩ではないので、「私はなぜこんなルールに縛られているのだろうか」という目線を大事にすることだと思います。例えば学校に行くのが当たり前の集団の中にいて、なぜ学校に行くのだろう、と思う人もいます。意識しないと、それが当然でしょう、と受け入れていかないといけない、でもそこが生きづらいことになってるのかもしれません。しかし、そこから少し引いた立場で、何か隠れたルールを読み解いていくと、このルールに縛られなくても別の選択肢があるのではないか、選択肢としてAかBしか与えられていないけれども実はCという選択肢があるよ、ということを出せるのではないか。そういう可能性を提示できる学問が教育社会学だと考えています。

Q. 先生の授業ではどのようなことを学べますか。

新谷  先進実践学環で提供している科目は2種類あります。一つは統計についての授業です(教育調査統計の社会学Ⅰ・Ⅱ)。社会関係という暗黙のルールを読み解く時に、我々がどういう形で物事を考えているのかを、量的調査であるアンケートや質的調査であるインタビューといった社会調査を利用して探っていきますが、量的調査には統計を利用します。講義では、統計の使い方だけでなく、統計によって調査実施者が探ろうとしている調査の意図も含めて読み解くことができるよう、統計に向き合ってもらっています。
もう1つは、私の研究対象である職業と教育の関連について、さまざまな議論を読み解く授業です(教育職業連関の社会学Ⅰ・Ⅱ)。そもそも教育と職業という別の社会制度がなぜつながっているのかを、既存の理論を踏まえつつ、職業教育やキャリア教育だけにとどまらず広い観点で職業と教育のつながりを社会学的に解明しようとしています。「教育が職業生活の役に立つからつながっている」という捉え方以外にもさまざまな議論があることをわかっていただければありがたいです。

Q. このインタビューでは、「私の1冊」としてオススメの本を伺っております。先生からはどのような本をご紹介いただけますか。

新谷  ちょっと古い本ですが「教育と社会変動(上・下巻)」をご紹介します。私がこの分野に関心を向けるようになったきっかけの本です。現在の教育社会学のアプローチの源流にあたる論文が数多く集められたものです。多様な集団をどう読み解くのか、その中に何が隠れたルールとして潜んでいるのか、という問題を取り扱った論文が多く掲載されています。市販はされていないですが、図書館に入っていると思いますのでご紹介させていただきます。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

新谷  自分の生きている世界について、当たり前のように過ごしていると何も気付かないことが多いですが、少しそこから距離を持って物事を考えると様々なものが見えてくるのではないかと思います。そこを気づけることがあれば、教育社会学という分野は非常に面白い分野だと思いますので、ぜひチャレンジしていただければと思います。

新谷 康浩

横浜国立大学教育学部 教授。教育と職業の関連の実態とそれに対する「まなざし」の解明等に焦点を当てた研究に従事している。