横浜国立大学大学院 先進実践学環

井上 史大 先生編(専門:デバイスマニュファクチュアリング分野/研究テーマ群:集積エレクトロニクスと社会展開 )

今回のインタビューはデバイスマニュファクチュアリングがご専門の井上史大先生にお伺いします。

Q.井上先生のご専門はどのような分野でしょうか?

井上  デバイスマニュファクチュアリングという分野で、いわゆる半導体製造プロセスの研究開発をしています。

私は2021年から横浜国立大学で教員をしていますが、その前はIMEC(Interuniversity Microelectronics Centre)というベルギーの半導体研究機関で10年間、半導体製造部門で働いていました。IMECは先端半導体分野では世界最大級の研究組織です。

特徴としては、国や政府から支払われる研究費より、パートナーシップを結んでいる半導体関連企業から支給される研究費のほうが多いということ。それらIMECのパートナー企業同士が繋がり合い、異業種同士でエコシステムを形成しながらオープンイノベーションで最先端の半導体技術やナノテクノロジーを生み出しているのです。

いま、世界的に見ても、半導体を取り巻く状況というのは、非常に複雑化して混迷を極めており、昔のように一社だけですべてを開発して社会実装するのが難しくなってきています。なので、IMECのようなかたちでコンソーシアムを組んで、異なるレイヤーの人や企業と協力しながら半導体を作っていかなければならない時代に入っています。

私の研究室に所属する先進実践学環の学生たちにも、単なる理系の開発だけにとどまらず、半導体やそこから派生するテクノロジーをいかに社会実装すべきかを常に考えてもらっています。また、オープンイノベーションやエコシステムの世界的な潮流などについてもしっかりキャッチアップしながら研究を進めてもらっています。

Q.もともとこの研究を始めたきっかけは?

井上  私は昔からものづくりが好きで、特にナノテクノロジーなどの先端技術に興味があり、大学時代は3D半導体の研究をしていました。その研究が、ちょうど2010年頃に先ほどお話ししたIMECに注目され、インターンというかたちで就職した、という経緯があります。そこから10年間、最先端の半導体製造技術やそれを社会実装する方法などを実践的に学んできました。

Q. 研究テーマの魅力、エキサイティングな点を教えていただけますか。

井上  特に先端半導体の世界では、オープンイノベーションとエコシステムが重要だと考えています。私自身、2023年4月から3D半導体に関するコンソーシアムを立ち上げました。今すでに100社近くの企業・大学・研究機関にお集まりいただいており、さまざまな研究会や発表会、講演会などを行っています。

半導体に関心がある企業はもちろん、半導体そのものは開発していないものの、情報を仕入れたいと考えている中小企業さんにもご参加いただいています。研究会は年4回あるのですが、毎回オンラインも含め200名以上が参加して、さまざまな方向から、半導体にまつわる将来的なイノベーションを模索しています。

私の研究室に所属する学生には、この研究会にも積極的に参加してもらっています。最先端の半導体技術や社会実装のノウハウが飛び交う場に身を置けるというのは、かなりエキサイティングな体験だと思いますよ。

Q. 先生の授業ではどのようなことを学べますか。

井上  「先端半導体製造特論」という授業を担当しています。まさしくベルギーのIMEC時代に学んだ最先端半導体の製造にまつわる技術などを講義するものです。

Q. 先生の研究分野にまつわるオススメの本があればご紹介いただけますか。

『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる闇の攻防』(クリス・ミラー 著)

最近読んだ本の中では出色の一冊でした。半導体がいかに生み出され、どう進化して今に至るのかを、日本やアメリカ、韓国、中国、台湾など世界各国の思惑と技術の攻防を通して、生々しく描いた本です。

長いので読み通すのがちょっと大変だと思いますが、これを読めば、かつて半導体で栄華を誇った日本の今昔や、世界の半導体にまつわる国や企業の思惑がよくわかりますよ。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

井上  よくニュースになるAI(人工知能)を始め、先端技術には半導体が不可欠であり、世界的に需要が高まっています。今後、国が何十兆円という単位で投資していく注目の分野です。

そして半導体業界は、今後10年で人材が4万人不足すると言われています。つまり、半導体に関わる“半導体人材”をものすごくたくさん育てていかなければならない時期なのです。

電子や回路のことに詳しい人だけが半導体人材かというとそうではなく、化学や物理、機械の知識も必要です。そして理系の技術と開発力だけがあっても、半導体は売れなければ意味がありません。なので、経営や流通など文系のバックグラウンドも非常に重要になってきます。

その点、異分野融合・文理融合をポリシーに掲げる先進実践学環なら、半導体にまつわる授業を、文理を越えて自由に選択できるのが魅力です。さまざまな分野で学んでいる人と交流し、お互いの足りないところを補い合いながら半導体について学んでもらい、ぜひ将来の半導体人材として活躍してもらいたいと願っています。