長谷川 誠 先生編(専門:材料強度制御分野/研究テーマ群: リスク共生学)
今回のインタビューは材料強度制御分野がご専門の長谷川 誠先生にお伺いします。
Q. 長谷川先生のご専門分野について教えてください。
長谷川 私の専門は材料工学で、その中でも高温構造材料や表面処理、コーティング技術を主に扱っています。
材料工学というと、どうしても「材料を作る」ことに注目されがちですが、私は「材料を作る」だけではなく、「材料がどう振る舞うのか」「なぜその性質が現れるのか」といった部分にも強い関心を持って研究してきました。
私の研究の中心になっているのが、エアロゾルデポジション法(AD法)です。従来、セラミックスの膜を作るには高温で焼成する必要がありましたが、この方法は室温・常温のまま膜を形成できるのが大きな特徴です。
熱に弱い材料にも適用できるため、応用の幅が一気に広がり、さらにエネルギー消費を抑えられ、環境にも負荷をかけずに済む技術です。
具体的には、1ミクロン以下の非常に細かいセラミックスの粒子を、ガスに乗せて高速で基材(板など)に吹き付けます。すると、粒子が衝突時のエネルギーで砕けたり押しつぶされて変形したりして、常温のまま強固に付着し、膜が形成されます。
高温処理を必要としないため、熱に弱い繊細な素材にも成膜させられるということで、さまざまな分野で採用されつつあります。
Q. 研究は、実社会でどのように活かされていますか。
長谷川 従来、耐摩耗性や耐久性を高める方法の一つとして、六価クロムを用いた硬質クロムめっきが広く使われてきました。完成しためっき膜は安定したクロム金属ですが、製造工程で使用する六価クロム化合物は有害性が指摘されている物質であり、環境負荷低減の観点から、代替技術の開発が求められてきました。
その代替技術の一つとしてAD法を使ったアルミナ(酸化アルミニウム)コーティングが開発されています。これにより、六価クロム化合物を使わずに優れた耐摩耗性や耐久性などの機能を付与することが可能となります。現在では、電力機器や航空宇宙分野など、高い信頼性が求められる世界への応用も進んでいます。
Q. この研究分野ならではの面白さはどこにありますか。
長谷川 実はAD法は、なぜ粒子が基材に高速で衝突するだけで膜になるのか、ということが完全には解明されていません。粒子が砕けたり、塑性変形(永久変形)しているらしいということまではわかってきましたが、その後、粒子が互いにどのように結合して膜となるのか、実は細かいことが判明していないのです。
私はX線を用いて結晶の向きを調べるアプローチを行い、「粒子が衝突した瞬間に壊れながら塑性変形し、結晶の向きが揃うことで膜になっている」ということをアルミナ粒子を使った実験で突き止めました。
しかし、まだまだ未知の領域が多いのも事実。なぜこの材料で膜ができて、別の材料ではできないのか? 条件を変えると、なぜ膜の性質が大きく変わるのか? そうした問いに答えられるようになることで、材料設計の自由度が格段に高まると思っています。
Q. 先生の授業ではどのようなことが学べますか。
長谷川 「材料強度・破壊力学特論」という科目を担当しています。研究では材料を“作る”ことが中心ですが、授業ではむしろ“壊す”ことにフォーカスしているわけです。
この授業では、「材料がどのように壊れるのか」「どの条件で破壊が起こるのか」を理論的に学びます。壊れ方を理解していないと、安全で信頼性の高い材料設計はできません。
最近では、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点からも、「どう壊すか」「どう分解するか」という視点はますます重要になっています。こうした社会的背景も踏まえながら、材料を見る力を養ってほしいと考えています。
Q. 先進実践学環で学ぶ意義をどう感じていますか。
長谷川 材料工学は、純粋な技術だけで完結する分野ではありません。環境規制や産業構造、政策の変化によって、求められる材料や技術も大きく変わります。
その点、先進実践学環では、工学だけでなく、社会科学や人文科学の視点にも触れられます。異分野の考え方を知ることで、「次に何が必要とされるのか」を早い段階で意識できるようになると思います。
Q. 最後に、受験生へのメッセージをお願いします。
長谷川 ぜひ、現象をそのまま受け取るのではなく、「なぜだろう?」と考える習慣を大切にしてください。
先進実践学環で、専門分野を深めつつ、他分野とつなげて考える力を身につけてほしいと思います。
それは研究者を目指す人に限らず、どんな進路を選ぶ場合でも、必ず役に立つはずです。