横浜国立大学大学院 先進実践学環

山梨 裕希 先生編(専門:超伝導エレクトロニクス分野/研究テーマ群:集積エレクトロニクスと社会展開)

今回のインタビューは超伝導エレクトロニクスがご専門の山梨裕希先生にお伺いします。

Q.山梨先生のご専門はどのような分野でしょうか?

山梨  超伝導エレクトロニクスです。その中でも、超伝導素子を使った情報処理回路――「超伝導回路」について研究しています。

情報処理回路とは、パソコンなどに内蔵されている半導体の集積回路のことですね。集積回路は近年、性能がなかなか伸びなくなっているという状況があり、超伝導素子を使うことで、より高性能な次世代の集積回路を作ることができると考えています。

ご存知のように、いま世界的にAI(人工知能)がブームで、ChatGPTのようなAIチャットサービスなどが普及していますが、AIというのはものすごく電力を食うんですね。今よりさらにAIが一般的になると、現状の集積回路ではとてもじゃないですが、エネルギー消費に対応できないと言われています。

その点、超伝導素子を使った情報処理回路は、小さな電力で動かせる“省エネ回路”であり、こうしたエネルギー問題を解決できるとして期待されています。

また、超伝導素子を使った量子コンピュータについても研究しています。量子コンピュータというのは、従来のコンピュータが搭載する計算回路とは違う原理で計算を行えます。いま普及しているコンピュータでは解くことができない複雑な計算ができるようになるので、世の中のさまざまな分野での活用が期待されています。

私が取り組んでいるタイプの量子コンピュータの得意分野としては、例えば災害対策のためのシミュレーションだったり、交通ルートの最適化などが挙げられます。企業で言えば、従業員に最高効率で働いてもらうためのシフト作りやスケジューリングなどができるようになるでしょう。

Q.もともとこの研究を始めたきっかけは?

山梨  私は昭和54年生まれですが、高校生の頃からエレクトロニクスが好きで。当時、家にあったパソコンでゲームをしたり、メモリを増設したり改造して遊んでいるうちに、コンピュータの中身に興味が湧き始めたんですね。

そこで、集積回路についてより深く学ぶため、横国大の電子情報工学科に進学しました。大学のいろんな授業を通して刺激を受ける中で、超伝導素子を使えば、より高性能なコンピュータの集積回路が作れるかもしれない、という可能性に心惹かれました。こうした経験が今の研究につながっています。

Q. 研究テーマの魅力、エキサイティングな点を教えていただけますか。

山梨  今すでにある情報処理回路は、どうすれば性能が上がるのか、ということについてはある程度わかっていると言いますか、もう答えが出尽くしていると言えるかもしれません。

しかし我々が研究している超伝導を使った集積回路の研究は、始まって30年ほどと歴史が短いこともあり、明確にこうすれば良いものが作れる、という指針がまだありません。もっと言えば、指針をまず探さないといけない状態であり、つまりは未知の部分が多いのです。

だから誰かの、例えば研究を始めたばかりの学生のちょっとしたアイデアが、驚異的なブレイクスルーに結びついたりすることもよくあります。可能性に満ちているところは、やっぱりエキサイティングですよね。

Q. 先生の授業ではどのようなことを学べますか。

山梨  「量子力学」という授業を担当しています。古典的な量子力学から、最先端の量子コンピュータのことまですべて網羅した内容です。ここまで量子力学とその応用のことがまんべんなく学べる授業は、現時点ではおそらく日本には他にないんじゃないかと思っています。

Q. 先生の研究分野にまつわるオススメの本があればご紹介いただけますか。

『物理学とは何だろうか』(朝永振一郎 著)

ノーベル物理学賞を受賞した物理学者の故・朝永振一郎さんの晩年の名著です。物理学は、そもそも誰が、いつ、どのように考え出したものなのか。その歴史や発展の背景を、とてもわかりやすく解説・考察した傑作です。

僕は高校時代から物理が好きで、得意科目だったんですが、高校の授業で教えられる物理って、いきなり公式が出てきて、それが終わるとまた別の公式を覚えて……という感じで、背景がほとんどわかりませんよね。この本では、その公式が生まれた背景などについても楽しく解説されています。

この本に出合ったのは大学院時代だったのですが、高校時代に読んでおけば、もっと物理が好きになっていただろうな、と思います。でもその場合は物理学科に進んでいたかもしれませんね。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

山梨  情報処理回路を作るには、さまざまな知識を身につける必要があります。例えば回路そのものはもちろん、そこに使われるさまざまな材料や最先端のAIの知識も持っておかないといけません。勉強することが多くて大変ではありますが、その分、やりがいはあると思います。

研究を続けるにあたって、大事なことはたくさんありますが、いちばん重要なのは、最終的にはやる気だと思います。常にいいものを作りたい、いい仕事をしたい、と思えるモチベーションの高さが大事と言いますか。

普段から、それまでにやってきた専門にガチガチにとらわれず、世の中のあらゆる事象に自分なりの視点を持って主体的に考えていくことが大切です。授業でも教えられたことをただ受け身で聞くのではなく、「ちょっと待てよ、これは違うんじゃないか?」などと自分なりに考えてみる。そういう姿勢があるかないかで、今後、何をするにしても成長度合いがずいぶん変わってきますよ。